『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』 幸せな2030年代を迎えるために
作者:新井 紀子
出版社:東洋経済新報社
発売日:2018-02-02

 

 

 

最近、人工知能の著書が増えてきたので、採り上げてみました。

著者は、2011年に始まった「ロボットは東大に入れるか」
プロジェクトのディレクターを務めておられます。

この人工知能(AI)は通称「東ロボくん」だそうですが、このプロジェクト結果、
ならびに日本人の読解力についての調査・分析を踏まえて、
AIをめぐる未来について論じています。

前半は、プロジェクトを通じたAIの可能性と限界について述べています。

シンギュラリティは来ないし、
AIが人間の仕事をすべて奪ってしまうような未来は来ませんが、
人間の仕事の多くがAIに代替される社会はすぐそこに迫っています。

*シンギュラリティ:
一般的には「AIが人間の知能を追い越すとき」という意味で使われることが多い。
著者は「”真の意味でのAI”が、自ら自身を超える”真の意味でのAIを”生み出したとき」と定義しています。
*”真の意味でのAI”:
「人間の一般的知能と同等レベルになる」ということであり、
将棋に勝つといった部分的なものではない。

人間の一般的知能と同等レベルである「真の意味でのAI」が、
現在時点では不可能である理由として、
今の数学で表現できることに原理的な限界があるためだとしています。

数学によって数式に置き換え可能なのは、論理・統計・確率の3つだけ。
ところが、脳が認識する全てをこの3つだけで表現することはできません。
なぜならこれでは「意味」を理解できないからです。

例えば「太郎は花子が好きだ」という文をgoogle翻訳に入れると、
”Taro likes Hanako.” と出てきます。
しかしAIはその意味は理解していないのです。

可能なことは圧倒的に正確で迅速ですが、脳が認識する全てを表現できない以上、
人間の脳そのものを上回るとは言えないでしょう。

では、我々人間は一安心なのかというと、そうではありません。
先の引用に加えて、著者は以下の問題提起しています。

現代社会に生きる私たちの多くは、AIには肩代わりできない
種類の仕事を不足なくうまくやっていけるだけの読解力や常識、
あるいは柔軟性や発想力を十分に備えているでしょうか。

これこそが、本書の重要なポイントなのです。
この問題提起に対して、
 いや備えてない日本人が多いですよ、
 そういう人は、このままではAIに取ってかわられますよ。
と警鐘を鳴らしているのです。

著者は、基礎的読解力を調査するためにリーディングスキルテスト(RST)
を自力で開発し、すでに2万5000人のデータを集めています。
その結果は驚愕のものであったといいます。

例えば、2つの文章を比べて意味が同じかどうかを判定する「同義文判定」があります。
これは、意味を理解しないAIも苦手としているものです。

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以下の2つの文章の意味が「同じ」か「異なる」か答えよ。

「幕府は、1639年、ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の警備を命じた。」

「1639年、ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸の警備を命じられた。」

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答えはもちろん「異なる」です。
ところが、調査対象となった中学生857人の正答率はなんと57%、
つまり約半数が「同じ」と回答しています。

このRSTによって、
「中学を卒業する段階で、約3割が(内容理解を伴わない)表層的な読解もできない」
と明らかにされたのです。

これは、単に学校の成績や受験の問題にとどまりません。
社会に出ても、書いてあることや相手の言うことを理解する必要があるし、
それをする必要がない仕事は、今後どんどんAIにとって代わられます。

本書を読もうと思ったきっかけは、私の小学生の娘です。

娘は科目によらず文章題が苦手です。
例えば、「文中から抜き出しなさい」という指示にもかかわらず、
少し語尾を変えたり、文中にない句読点をつけることがよくあります。

つまり、何を問われているかを正確に理解していないといえます。

まだ9歳で論理脳が発達途中なので、現時点で多くを望むのは難しでしょう。

本書にも、読解力を向上させる処方箋が明示されてはいません。

ただ、将来に向けて、本書のタイトルである「教科書が読めない子ども」
にならないよう、少しずつ工夫していこうと思います。

(勿論、我々大人にとっても他人事ではありません)